home ＞キリスト教入門＞ 山本神父入門講座＞ 32. 富と神の国
山本神父入門講座
32. 富と神の国
「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」（ルカ18章25節)。 有名なイエスのことばである。福音の伝えるこのことばには、ある人をめぐるさびしい背景がある。
ルカだけが議員と言うこの人は最高法院の議員だったのだろう。彼がイエスに尋ねた「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか。」永遠の命にかかわる重大な質問であるが、「何をすれば... 」という聞き方が、永遠の命を受け継ぐ「決め手」を尋ねているようで、何となくファリサイ派の律法学者的な雰囲気を感じさせる。それで掟の問題に気をつけられたのか。イエスの答えは慎重だった。質問に答える代わりに言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない」（ルカ18章19節)
神の十戒には、「あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない。・・・あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。」（出エジプト記20章3,7節)という二つの掟がある。「善い先生」と言うのは、「善い者」である神の特性をみだりに言うことで、十戒に背くおそれがあるとイエスは言われたのである。その上でイエスは本題に入られた。「『姦淫（かんいん）するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。すると議員は、『そういうことはみな、子供の時から守ってきました』と言った」（ルカ18章20-21)。
神の国に入るためには、掟を守れというのならば、万全を期してきた。だから聞いているのだ、さらに「決め手」となるものは何かと。「イエスは言われた。『あなたに欠けているものがまだ一つある。持っている物をすべて売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に富を積むことなる。それからわたしに従いなさい。』しかし、その人はこれを聞いて非常に悲しんだ。大変な金持ちだったからである」（ルカ18章22-23)。
子供のときからすべての掟を守ってきた人が、イエスに従いきれなかったのはなぜか。「イエスは、議員が非常に悲しむのを見て、言われた。『財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。』これを聞いた人々が、『それでは、だれが救われるのだろうか』と言うと、イエスは『人間にはできないことも、神にはできる』と言われた」（ルカ18章24-27節)。
掟を守ることが、神の国に入るためのすべてであったとすれば、この議員は神の国に入る第一の人になったかも知れない。彼は、自分が、掟を、守る、 ことによって神の国に入るのだと考え、注意深く掟を守ってきた。そのようにして、神の国に入ることを、確実にするには、自分は、さらに、何をする必要があるのか。議員は、このような意味で、神の国に入ることを確実にすることを求めていた。しかし、イエスの教えられたことは違った。それはすべてを捨ててイエスに従うことであった。金持ちの議員には、すべてを捨てることができなかった。富がそれを妨げたのである。富はこのような善意の人間をも、このように縛りつけてしまう。だから、「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」のである。このイエスのことば聞いた人々が、「それでは、だれが救われるのだろうか」と言うのに無理はない。しかし、イエスは細かい説明は何もされなかった。ただ、「人間にはできないことも、神にはできる」と言われただけである（ルカ18章24-27節参照) 。
そこで、ペトロが言った。「このとおり、わたしたちは自分の物を捨ててあなたに従って参りました。」と言った。イエスはそれを受け入れて、言葉をつがれた。「はっきり言っておく。神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子供を捨てた者はだれでも、この世ではその何倍もの報いを受け、後の世では永遠の命を受ける」（ルカ18章28-30節参照) 。
イエスが教えた神の国に入るためには、ただ掟を守って義人になるだけでは足りない。それだけならば律法学者やファリサイ派の人々も教えている。イエスが教えられることは、回心して、福音を信じ、イエスに従うことである。それは、人が自分の力だけでやることではない。神の救い、恵みが必要である。イエスのまわりには、徴税人ザアカイのような人もいた。徴税人で金持ちだったのに、イエスが彼の家に泊まられたことに感激して、「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人々に施します。また、だれかから何かだまし取っていたら、それを四倍にして返します。」と言った人もいる。それに対して、イエスも言われた。「今日、救いがこの家に訪れた。・・・人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである」（ルカ19章1-9節参照) 神の力が、ザアカイが負っていた富の束縛を解いてくださったのである。