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アレオパゴスの祈り

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アレオパゴスの祈り 2008年9月6日


萩


主よ、あなたはわたしを究め わたしを知っておられる。
座るのも立つのも知り 遠くからわたしの計らいを悟っておられる。
歩くのも伏すのも見分け わたしの道にことごとく通じておられる。
わたしの舌がまだひと言も語らぬさきに 主よ、あなたはすべてを知っておられる。
前からも後ろからもわたしを囲み 御手をわたしの上に置いていてくださる。
その驚くべき知識はわたしを超え あまりにも高くて到達できない。

神よ、わたしを究め わたしの心を知ってください。
わたしを試し、悩みを知ってください。
御覧ください わたしの内に迷いの道があるかどうかを。
どうか、わたしを とこしえの道に導いてください。     (詩編 139 1~6、23~24)
 

今年の6月から、パウロ年を歩んでいるわたしたちは、毎月、新約聖書の聖パウロの書簡を読みながら、パウロについて学んでいます。今晩の「アレオパゴスの祈り」では、人生の途中で、キリストという宝を見つけたパウロが今まで大切にしてきたものを、すべて投げ打って、キリストに従ったことを語っているところに注目したいと思います。

後ろでローソクを受け取り、祭壇にささげましょう。祭壇の上のハガキをお取りになって席にお戻りください。

最初に使徒パウロのフィリピの信徒への手紙を聞きましょう。

フィリピの信徒への手紙3.5~9

 
わたしは生まれて八日目に割礼を受け、イスラエルの民に属し、ベニヤミン族の出身で、ヘブライ人の中のヘブライ人です。律法に関してはファリサイ派の一員、熱心さの点では教会の迫害者、律法の義については非のうちどころのない者でした。しかし、わたしにとって有利であったこのこれらのことを、キリストのゆえに損失と見なすようになったのです。そればかりか、わたしの主キリスト・イエスを知ることのあまりのすばらしさに、今では他の一切を損失とみています。キリストのゆえに、わたしは、すべてを失いましたが、それを塵あくたと見なしています。キリストを得、キリストの内にいる者と認められるためです。
 

(沈黙)

パウロはタルソスのユダヤ人を両親として生まれたユダヤ人の血すじを受けついでいます。このことはパウロ自身が「わたしは生まれて八日目に割礼を受け、イスラエルの民に属し、ベニヤミン族の出身で、ヘブライ人の中のヘブライ人です。」と誇りをもって証言しています。

両親は父祖の宗教、ユダヤ教に忠実なユダヤ人で、生まれた男の子に割礼を施し、自分たちが属するベニヤミン族の英雄サウロ王にちなんで、「サウロ」と名付けました。生まれて八日目に割礼を受けたというのは、成人してから改宗して割礼を受けたユダヤ人ではなく、ユダヤ人を両親として生まれたユダヤ人の血すじを受けついでいることを誇る表現です。生まれや血統から、神に選ばれて契約にあずかる民イスラエルに所属するだけでなく、受けた教育と生活習慣においても厳格なユダヤ教徒であるとして、彼は「ヘブライ人の中のヘブライ人」と誇っています。

パウロは異邦人地域に住むユダヤ人、すなわちディアスポラ(離散)のユダヤ人でした。「サウロ」というユダヤ名の他に、「パウロ」というギリシャ語の名前も持っていました。この二つの名前が象徴するように、パウロにユダヤ教とギリシャ文化という二つの世界が絡み合っている事実が、パウロをならしめていました。

パウロは、ユダヤ教徒としての誇りを数え上げた後、こう断言します。「しかし、わたしにとって有利であったこれらのことを、キリストのゆえに損失と見なすようになったのです」。「わたしにとって有利であったこれらのこと」というのは、ユダヤ教徒としての誇りです。律法を守る者として優れている点です。以前には、それが神から遣わされたキリストに反抗する理由になったのですから、キリストを信じる今では「損失」でしかありません。パウロはさらにこう続けます。

パウロ

「そればかりか、わたしの主キリスト・イエスを知ることのあまりのすばらしさに、今では他の一切を損失とみています。キリストのゆえに、わたしはすべてを失いましたが、それらを塵あくたと見なしています」。パウロは、キリストのすばらしさに圧倒されて、それ以外のもの一切を損失とし、キリストを知り、キリストを得るために今まで大切にしてきたものをすべて失っても全然惜しくありませんでした。無価値な「塵あくた」と表現しています。ここで「他の一切」とか、「失ったすべてのもの」と言っているものは、とくにユダヤ教徒としての誇り、律法を厳格に守る者であることに最高の価値をおいていたことは明らかです。

何が起きたのかは正確にはわかりません。しかしここで決定的な価値の転換が起こっています。それまで最高の価値であったものが「塵あくた」となり、それまでは最も卑しいものとしていた十字架の刑を受けたイエスをキリストとして知ることが宝とされるようになったのです。それまでは、パウロは律法を基準にして価値を計っていました。どれだけ律法にかなっているかが、一切のものの価値を決めていました。その規準からすると、イエスは十字架で処刑されるべき無価値なものです。ところが、イエスが復活されたキリストであると知ってからは、一切をキリストを規準にして見るようになります。パウロにとって「生けるキリスト」は他のどのような宝にもまして、すばらしい宝でした。この宝を見つけたパウロは、今までのユダヤ教徒としての誇りすべてが、一瞬にキリストに敵対するものとして「損失」になってしまったのです。

マタイ福音書の中でも、宝を見つけた人のたとえ話をイエスご自身が語っています。その箇所を聞きましょう。

マタイによる福音書13.44~46

天の国は次のようにたとえられる。畑に宝が隠されている。見つけた人は、そのまま隠しておき、喜びながら帰り、持ち物をすっかり売り払って、その畑を買う。
また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。高価な真珠を一つ見つけると、出かけていって持ち物をすっかり売り払い、それを買う。
 

「畑に隠されていた宝」と「真珠」のたとえ話はよく似ています。古代では真珠は養殖されるものではなく、自然にできたものを発見するだけだったので非常に高価でした。この2つのたとえ話は、天の国は人間にとって最高の宝だから、何にもまして神の国を求めなければならない、という教えだと理解できそうです。マタイは、「天の国」と言いますが、「神の国」と同じことで、神が王となる状態、つまり神の愛がすべてにおいてすべてとなる状態と考えればよいでしょう。あるいは、本当の意味でわたしたちが神と共にいる状態と言ってもいいかもしれません。このたとえの場合、「畑に隠されていた宝」「高価な真珠」が天の国(または神の国)だと受け取ることができます。わたしたちにとって本当に宝とは? すべてを売り払ってでも手に入れたいものとは何でしょうか?

なぜただの宝だけではなく、「畑に隠されていた宝」なのでしょうか。見つけた人は小作人で、たまたま主人の畑で働いているときに宝を発見したということなのでしょう。畑を買わなくても宝だけを持ち去ればよいのかもしれませんが、彼は畑そのものを手に入れます。そこに何か意味があるのでしょう。次ぎのようなことを考えてみてもよいかもしれません。彼が見つけたのは自分自身のうちに隠されていた宝だったのではないでしょうか。それを発見したときに、彼は自分の人生を手に入れることになる、つまり、もう小作人ではなく自立した農民になるということではないでしょうか。

また、このたとえ話を次ぎのように解釈することもできるかもしれません。それは、「畑に隠されていた宝」や「真珠」をわたしたち人間のことだと考えます。人間が神を求めるよりも、神がわたしたちを探し求めている、そう考えるとまったく別の光が見えてくるのではないでしょうか。神が人間を獲得するためにすべてを犠牲にした、それは、「神はその独り子をお与えになったほどに、世を愛された」(ヨハネ3章16)、「イエスはわたしたちのために命をささげてくださった」ということを連想させないでしょうか。このようなメッセージを受け取るならば、これはもう、ただひたすら感謝する以外にありません。たとえ話は、一つの教えというよりも、一つのイメージなのです。好き勝手なイメージでどんなに曲解してもよいというわけではありませんが、イエスの生き方とメッセージ全体とつながるイメージであればよいのです。そのイメージがわたしたちの現実とつながるイメージであれば、そこには大きな力があるのです。  
         (福音のヒントより抜粋 幸田和生司教)

 

しばらく個人的に祈りましょう。

『祈りの歌を風にのせ』p.44 「土の器の中に」

神の国は、2000年前、イエスがこの地上に来られたとき、イエスが行なわれたしるしによってすでに始められました。神の国の完成を待ち望みながら、イエスご自身が弟子たちに、教えてくださった祈りをご一緒に唱えましょう。

「主の祈り」を唱えましょう。

   天におられるわたしたちの父よ、
   み名が聖とされますように。
   み国が来ますように。
   みこころが天に行われるとおり地にも行われますように。
   わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください。
   わたしたちの罪をおゆるしください。わたしたちも人をゆるします。
   わたしたちを誘惑に陥らせず、悪からお救いください。
   アーメン。

これで今晩の「アレオパゴスの祈り」を終わります。


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