お薦めシネマ
活きる
2002年3月
活者
- 監督:チャン・イーモウ
- 原作:『活きる』ユイ・ホア著(角川書店刊)
- 音楽:チャオ・チーピン
- 出演:コン・リー、グォ・ヨウ
1994年 中国映画 2時間11分
- 1994年カンヌ国際映画祭審査員特別賞、主演男優賞受賞作品
「赤いコーリャン」(88)、「菊豆」(90)、「紅夢」(91)、「秋菊の物語」(92)など、数々の名作を生み、昨年は「初恋の来た道」がヒットした中国を代表する監督、チャン・イーモウの1994年の作品です。監督とはおなじみのコン・リー、そして夫役のグォ・ヨウと組んで、1994年カンヌ映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を受賞しました。
この映画は、夫婦の愛、親子の愛の小さな幸せが温かく描かれています。また、1940年代からの中国の激動の歴史の中で、市井の人々がどのように生き抜いてきたか、中国の現代史を知る上でも貴重な作品になっています。さらに、コン・リー、グォ・ヨウはじめ、かわいい子役たちの熱演も見逃せません。
映画は、1940年代から始まります。
資産家の家に生まれた福貴(フークイ/グォ・ヨウ)は、毎晩、賭博場に通い続けています。しかし負けが続き、とうとう借金がかさみ、家財をすべて手放すことになりました。幾度となく、賭博を止めるようにといさめていた妻の家珍(チアチェン/コン・リー)は、身重の体で、娘を連れ実家へ戻ってしまいます。福貴の父は、怒りのあまり亡くなり、福貴は病の母を抱え、残ったわずかの生活品を売りながら、貧しく暮らしていました。
半年後、福貴が賭博から足をあらったことを知った家珍は、娘と生まれたばかりの長男をつれ、福貴のもとに戻り、新しい生活を歩み始めます。
福貴は、家族の生活のために、仲間と影絵の巡業を始めます。福貴の歌と、旧友の春生(チュンション)の影絵操作で村々を巡り、人々を楽しませていました。しかし二人は旅先で、蒋介石の国民軍と、毛沢東の共産軍との戦いに巻き込まれてしまいます。戦争の恐ろしさと無意味さを目にした福貴は、どんなことがあっても生き延びて家族のもとに帰ろうと決心します。
1950年代。
国は、共産党一色に覆われていきます。家庭から鉄製品を徴収し、町の人総出で錬鉄が行われ、大規模な大衆運動が展開されていきます。福貴家族も、町の人々と一緒に熱心に働きました。しかし悲しい出来事が起こりました。区長が来るというので、夜、小学校に召集された長男の有慶(ヨウチン)が、区長の運転する車にひかれて死んでしまったのです。有慶は、聾唖の姉の鳳霞(フォンシア)が、近所の子どもたちからいじめられるのを、幼いながらも必死でかばうやさしい子でした。 有慶を車で轢いた区長は、なんと戦火の中をともに生き延びた春生でした。 悲しに沈む家珍は、春生を赦すことができません。
1960年代。
思いやりがあって働き者の鳳霞に、結婚相手が見つかりました。工場を仕切る、まじめな青年・二喜(アル・シー)です。仲間に祝福され、二喜の自転車に乗って涙ぐみながらもうれしそうに嫁いでいく鳳霞に、福貴も家珍もホッと胸をなでおろします。
鳳霞が身ごもり、出産のときが来ました。時は文化大革命のさなか。医者はすべて反動分子として牢に入れられ、若い看護婦だけの病院で、鳳霞は男の子を産みました。喜んだのも束の間、その直後、鳳霞は出血が止まらず、生命の危機に陥ります。夫が密かに医師を連れ出して来ていましたが、食事も満足に与えられていない医師には、鳳霞に処置をほどこす体力がありませんでした。泣き叫ぶ家珍。
数年後。福貴と家珍は、孫の面倒を見ながら鳳霞の夫と一緒に暮らし、慎ましい生活を続けています。生活は貧しく統制があっても、そこには、家族が互いを思い合いながら暮らす幸せがありました。
共産党下の市民の生活は、驚きです。この映画には、家庭での食事の場面が出てきますが、それはそれは貧しい食事です。でも、分け合いながらの楽しい食事です。家族愛が投影されている食事の場面も、ぜひご注目ください。
また、資産家時代の福貴の豪華な家の調度品、貧しくなり生活の糧として活躍した影絵細工の美しさ、福貴の歌声、共産党下での家や壁に描かれた毛沢東の大きな絵などなど、歴史と人々の生活を感じさせる部分も、この映画の魅力です。
コン・リー:裕福な新妻から祖母役まで、優しさと母の愛情をあふれさせ、しみじみとした演技で、映画を支えます。
ユイ・ホア:欲望がなく、貧しくとも家族を大切にする姿、 思いやりのあるやさし子煩悩な父がすてきです。物語の展開に、ついつい引き込まれてしまうのですが、なにげないようで存在感がある福貴をじっくりとご覧ください。ほんとうに、いい感じなのです。この人を見ていると、心がすがすがしくなってきます。味のある役者さんですね。
かわいい子役たち:鳳霞の子役2人、有慶の子役、孫の子役、自然でかわいいのです。
我が子を失うという悲しい出来事を2度も受けながら、互いの愛でその辛さを乗り越える中国の貧しい夫婦の姿は、小さくともしみじみとした幸せはごく普通の生活の中にあるということを教えてくれます。人間ってすてきだなと、心があたたかくなる映画です。