お薦めシネマ
千の風になって
2004年9月
I am a thousand Winds
- 脚本・監督:金秀吉
- 脚本協力:新井満
- 音楽:周防義和
- 出演:西山繭子、伊藤高史、南果歩、水谷妃里、
桂木梨江、吉村実子、綿引勝彦
2004年 日本映画 107分
私のお墓の前で 泣かないでください
そこに私はいません。死んでなんかいません
千の風になって 千の風になって
あの大きな空を 吹きわたっています
新井満氏が、上記の英語の詩もとに書いた『千の風になって』が、ベストセラーとなりました。お読みになった方もいらっしゃるでしょう。マリリン・モンローの追悼で読まれたり、9.11で父親を亡くした少女が一周忌で朗読したりしてきた詩です。新井氏が“死と再生の詩”と呼んでいるこの詩は、愛する人を亡くした者の心をなぐさめ、語りつがれてきました。
映画は、新潟放送の長寿番組「ミュージックポスト」の人気コーナー“天国への手紙”に寄せられた手紙から取材した、3人の体験を描きながら、肉親への思いの深さ、いのちの大切さを語っていきます。
物語
雑誌社に勤務している女性記者、紀子(西山繭子)は、編集長から新しい企画「天国への手紙」を担当するように命じられた。新潟放送で人気のある長寿番組「天国への手紙」で読まれた手紙の送り主を取材するものだった。紀子のお腹の中には新しい生命が宿っていたが、演劇をしている夫から「子どもはいらない」と言われ、妊娠を喜べない状態だった。
紀子は新潟へ飛び、ラジオ番組に送られてきた手紙の中から、取材をはじめていく。
最初に訪れたのは、小児がんで長男を亡くした葉子(南果歩)だった。葉子の長男は「ターちゃん、ターちゃん」と呼ばれ、両親から愛されて育った。ターちゃんの短い人生に寄り添う母と父。ターちゃんは子どもでありながら、自分のいのちの短いことを感じ取っていた。
葉子は、ターちゃんの意識がもうろうとする中で、2回聞いたターちゃんの言葉が忘れられないと紀子に語る。身体が弱っているのに、治療の時間だからと、婦長がムリヤリベッドから起こそうとした。ターちゃんは、「イタイ!」と叫んだ。葉子は「やめてください!」とすがるが、婦長は「時間だから」とターちゃんを連れていった。
もう一度は、ターちゃんが息を引き取る直前のことだ。ターちゃんが、「しあわせ」とかぼそい声で、二言三言発した。父と母はベッドにすがり、「私たちも幸せだったよ」とターちゃんに伝えた。
2人目の手紙は、ある女優からだった。彼女(水谷妃里)が高校生のとき、親友に告げ口されたことからいじめにあい、たばこを吸っている生徒として担任の先生に印象づけられてしまった。弁解しても担任やクラスの生徒から理解されず、学校で押さえていた気持ちは、家に帰ると母親(桂木梨江)への暴力となって吐き出された。やがて、学校へは行かなくなり、服装も派手になった。父親は見ぬふりをし、「めんどうなことは起こさないでくれ」と、妻も娘をも守ろうとしなかった。限界を感じた母親は、ガス自殺を図って亡くなった。
自分も母親と同じように死のうと薬を飲み、ガス栓をひねり、母親と同じ場に横たわるが、死ねなかった。次第に、母親を殺したのは自分だと思い、自分を責める日が続くようになった。
母親を越える年齢になった今、母親へのゆるしを願う日々を過ごしているという。
紀子が書いたページは次第に反響を呼ぶようになり、紀子の取材にも熱がこもっていく。
3つ目の手紙は、稲作農家の主婦からだった。すい炎で入院していた夫が元気になり、再び一緒に、田で働くようになるが、しばらくして、すい臓がんで倒れる。夫もそのことを悟り、限られたいのちを精一杯生きようとする。妻は夫の余命を、家で過ごさせようと在宅看護をはじめる。夫は妻のために、道路に面している休耕田を、妻の念願だった柿畑にすることを提案する。夫婦は、はじめての柿の収穫を迎えたが、ついに夫の最期のときがやってきた。夫は、妻に「ありがとう、ありがとう」と言って息を引き取る。
紀子は、取材をとおして、お腹の中のいのちを尊ぶようになっていく。新しいいのちを、この世に生み出す“母”となっていく。演劇をやめようとしていた夫も、再び、稽古をはじめる。
死は別離ではなく、地上から天国へ場所が変わることという感じがしました。亡くなった人は、「いつもそばにいて、空の上から見ているよ。見守っているよ」と、言ってくれるようです。「死」は永遠の別れではなく、天国にいる愛する人は、いつまでも、その人を思う人の心の中に生きているのです。