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 その日のまえに

2008年11月

マルタのやさしい刺繍

  • 監督:大林宣彦
  • 原作:重松清『その日のまえに』(文藝春秋刊)より
  • 脚本:市川森一
  • 撮影台本:大林宣彦、南柱根
  • 音楽:山下康介、學草太郎
  • 出演:南原清隆、永作博美、原田夏希、風間杜夫、筧利夫、
       今井雅之、柴田理恵、森田直幸
  • 配給:角川映画

2008年 日本映画 139分

  • 第21回東京国際映画祭正式出品作品
 

今年は、永作博美さんが、映画界で大活躍です。「その日のまえに」では、夫とかわいい子どもたちを残して先に天国へ旅立たなくてはいけない妻・母の姿をかわいらしく、かつ潔く演じています。

宮澤賢治が、愛する妹・とし子が天国へ旅立つ「とき」を詠んだ「永訣の朝」が、映画全体の通奏低音として流れ、大切な家族の死が、静かにゆっくりと受け入れられていきます。

 

物語

イラストレーターとして成功し、数人のスタッフを抱えるデザイン事務所を構えるようになった健大(南原清隆)は、まだ無名だったときから自分を励ましてくれた妻・とし子(永作博美)、と小学生の二人の息子と、幸せな日々を過ごしていた。しかし、ある日、妻が余命少ない病に冒されていることを告げられる。

とし子の望みは、その日の最後の瞬間まで一生懸命生きたいということだった。そして、夫のため、幼くして母を失う子どもたちのために、死の準備をはじめる。

ある日とし子は健大をともない、「浜風駅」に降り立つ。そこは二人の新しい生活がはじめった街だった。かつてのマーケットをとおりながら、店の人々とのなつかしいやりとりを思い出す。

とし子を見つめながら、健大も小さいころのことが浮かんでくる。そして嵐の中、海で遭難した友がいたことを思い出す。

母の入院に、さみしい思いをしていた子どもたちは、学校の帰りに公園で待ち合わせて帰宅していた。その公園では、「くらむぼん」と名乗る女性(原田夏希)が、チェロを弾きながら宮澤賢治の「永訣の朝」を歌っていた。繰り返されることば「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の意味はわからなかったが、その歌は、子どもたちの心にしみていった。

とし子は「元気なままのお母さんでいたい」と健大に告げ、病室に子どもたちが来ることを拒んでいた。

とうとう最期のときがやってきた。意識がなくなってきたとし子を見て、健大はもういいだろうと子どもたちを病室につれていく。とし子の両親も東北の田舎から上京した。すでに昏睡状態に入った母の横で、子どもたちは「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の意味を、祖父に尋ねるのだった。

 

 

  宮澤賢治 「永訣の朝」より

けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
  ・
  ・
  ・

 

死に向かって準備していく妻を受け止め、彼女の思いを尊重して寄り添う夫であり、母を失う子どもたちを励ましながらやさしく包む父の姿を、南原清隆がいい雰囲気で演じています。このようにともに死を準備できたらいいなと思います。

健大と妻・とし子、宮澤賢治と妹・とし子の他に、いくつかの家族が登場します。彼らをとおして、子どもの立場から、夫の立場から、妻の立場から、家族の死、そして自分の死を考えるときを与えてくれる作品です。

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