お薦めシネマ
泣きながら生きて
2009年11月
- ナレーター:段田安則
- 演出:張麗玲・張煥琦
- 琦音響効果:田中政文、渡辺真衣
- 制作・著作:フジテレビ・東方吉祥
- 配給:ムーンビームス/ピクチャーズデプト
2006年 日本映画 108分
「親が踏み台になって、子はその上に立っていく」中国の両親は、子どものために、一生懸命働き、その子が一人前になるまで育てます。日本に来て、いくつかの仕事を掛け持ちして働いている丁尚彪(ていしょうひょう)さん(35歳)も、そんな中国のお父さんの一人です。
丁さんが日本に来たのは1989年のことです。勉強したいという夢を文化大革命が打ち砕きました。上海に生まれたにもかかわらず、丁さんは農村へと派遣され、勉強する時機を逸したのです。農村での働きのときに出会った妻と結婚し、子どもとともに上海に帰ってきた丁さんは、ある日、日本語学校のパンフレットを見つけます。勉強したいという夢を実現する最後のチャンスだと思った丁さんは、妻を説得し、親戚からお金を借りて日本にやってきました。日本語を学んだ後、大学に入ろうと計画していました。
しかし丁さんら、日本語を学ぶためにやってきた人々を迎えたのは、北海道にある、かつて炭鉱で栄えた町にある廃校を利用した学校でした。夫婦で15年間働いて得られるほどの多額の借金を返済するため、働きながら学校へ通おうと思っていた丁さんですが、町には働く場所がありませんでした。
いまさら中国へ戻ることもできない丁さんは、その町を出て東京で働くことを決心しました。しかし、学校の生徒でなくなった丁さんにはビザの更新が認められず、たちまち不法滞在者となってしまいました。夢の実現をあきらめた丁さんは、その夢を娘に託すことにしました。娘を一流の大学に入れるために、丁さんは狭いアパートに住み、いくつもの仕事をして必死に働きます。
上海でお母さんと暮らしている娘・丁淋(ていりん)さんは、そんな父親の思いを知って涙を流します。「お父さんが心の底からわたしを愛してくれていえることを知っている」。
日本で働く丁さんを追ったドキュメンタリーが、3年前に放送され大きな反響を呼びました。そのときのVTRを持って、番組スタッフは上海を訪れました。8年ぶりに見る父親の姿に、丁淋さん母子は涙を流します。丁淋さんは、アメリカの大学へ行き、医者になる夢を持っていました。
映画は、さらにその後の丁さんと丁淋さん母子の姿を追っていきます。日本、中国、アメリカと3つの国に分かれて住む3人は、いつか一緒に暮らすことはできるのでしょうか?
「人間、だれでも歯をくいしばって生きていくんだよ」と語る丁さん。互いを思いながら、離ればなれの状態で必死に生きる丁さん親子に、家族の絆の強さを感じます。日本の空の下に、隠れるようにして必死で働いているたくさんの滞日外国人の人々。丁さん夫妻の姿に、貧しいけれど必死に生きている人間の崇高さを見ました。